老人ホームでは、文科系・体育系とさまざまなサークル活動が行われている所もあります。自分の好きな趣味を仲間と行うことで多くのメリットを得られます。私のおばあちゃんも、老人ホームでコーラス部に入り、素敵な歌声を披露してくれていました。
老人ホームでの合唱の光景やそれを見て感じたことを紹介したいと思います。
私のおばあちゃんは、70歳から老人ホームに入っています。元々住んでいた自宅は5階建ての団地で、エレベーターがありません。5階に住んでいたのでだんだんと階段での昇り降りが大変になってきて、おじいちゃんと二人でまだ元気なうちに老人ホームに入居したのです。
ホームは一般棟と介護棟に分かれています。
まだ元気だった祖父母は一般棟に入り、充実した生活を送っていました。特におばあちゃんが楽しんでいたのは、サークル活動です。たくさんのサークルがある中で、おばあちゃんが選んだのは合気道と手芸部とコーラス部でした。
施設の前が大きな公園で、合気道はそこで行います。健康のためにはとても良いことでしたが、一度転んでから足が痛くなり、合気道はできなくなってラジオ体操に変えました。手芸も大好きでしたが、さすがに視力も落ちて来て肩も凝って昔のようには作れなくなり、手芸部への参加も減ってきました。
けれどもコーラスだけは、ずっと続けることができていたのです。
歌を歌うということは、さほど老いてもできます。車椅子でもコーラス部で歌っているおばあちゃんはたくさんいました。私のおばあちゃんも、足の調子が悪いときは椅子に腰かけて歌っていました。合気道や手芸は老いと共にできなくなってしまいましたが、合唱ならまだまだ続けることができそうだとおばあちゃんも嬉しそう。
よほど病気にならない限り続けられるのが、何といってもコーラスの魅力ではないでしょうか。また合唱はソロで歌うものではありません。仲間と一緒に歌う楽しみもありました。部屋ではおじいちゃんと2人での生活ですが、コーラスのサークルのときには入居者の友達に会うことができます。
一生懸命歌うだけでなく、その後にはお茶を飲んだり話したりして、そういった時間もおばあちゃんにとっては楽しいひとときだったのでしょう。いつもコーラスサークルの日が待ち遠しそうでした。
クリスマスに老人ホームでコーラスの発表会があるとのことで、母と一緒に見に行きました。いつもよりも綺麗な服を着て化粧もして、おしゃれをして発表会に臨むおばあちゃん。身だしなみを美しくすることも、老化防止になると言います。
エントランスホールに、ずらりとコーラス部のみんなが並びました。車椅子の人も男性もいます。かなりの人数で、やっぱりコーラスサークルは人気なんだと改めて思いました。ピアノ伴奏に合わせて、先生の指導の元発表会が始まりました。
クリスマスなので、「きよしこの夜」などのクリスマスソングが披露されます。大きな口を開けて朗らかに歌うおばあちゃんを見ていると、感動して涙が溢れてきました。まだまだ元気にいて欲しいと思えました。そしてこんなふうに活き活きと活動できる場を作ってくれた施設のスタッフや先生にも感謝の気持ちでいっぱいに。
皆さん、とてもいい顔をして歌っておられます。老人ホーム中におじいちゃんおばあちゃんの素敵な歌声が響き渡り、何とも感動的なクリスマスになりました。
80歳半ばで、おじいちゃんは亡くなりました。その後元気だったおばあちゃんもリンパ浮腫がひどくなり、さらに風呂場で転倒して腰を骨折。今までみたいには歩くことができなくなってしまいました。それでも車椅子は嫌で、何とか押し車を押しながら施設の中を歩くようになったのです。
押し車になってからは、コーラス部への参加も減少傾向に。部屋から出るのも時間がかかります。練習中も、先生には「座って歌ってください、何も問題ありませんよ」と言われていましたが、おばあちゃん本人にするとしっかりと立っておなかから声を出して一生懸命やりたいのです。
真面目なおばあちゃんは、座って小さな声で歌うことに気が引けていました。
コーラスサークルに行くことが減り、歩くことも大変になり、母とそろそろ車椅子に乗らなければいけないかもと相談する日が続きます。施設に行っても、前ほど笑顔はなくなりました。そんなときに、廊下や食堂でコーラスサークルの仲間と会うことがありました。
そうすると皆さん、「また一緒に歌いましょう、今度の練習のときはお部屋に迎えに行くから、一緒に行きましょう」と声をかけてくださるのです。「あなたがいないと、みんな楽しくないです」などと言ってくださり、孫としてもとても嬉しかったです。
コーラスサークルに入ったことで、とても素敵な仲間がたくさんできたと思いました。
90歳手前で、とうとうおばあちゃんは車椅子でしか移動できなくなりました。車椅子になると一気に弱り、悲しいことに認知症も出てきたのです。コーラスサークルにも行けなくなりました。残念なことですが、さすがに90歳にもなると仕方がありません。
認知症はどんどん進み、おじいちゃんが亡くなったことさえ分からなくなり、食べた物もすぐに忘れてしまいます。笑うことも喋ることも減って、ぼうっとしていることが増えてきました。そしてまたクリスマスになり、エントランスホールではコーラスサークルの合唱が披露されることに。
母とわたしは、おばあちゃんの車椅子を押して合唱を見に行くことにしました。前はみんなに混じり歌っていたおばあちゃんですが、今は観客側です。
それでも久しぶりに見るイベント、そしてみんなの歌声におばあちゃんは久しぶりに目を輝かせていました。「上手だね」と聞き惚れて拍手するおばあちゃん。発表会が終わり、仲間の人がおばあちゃんを見つけて駆け寄ってくれました。
「元気にしてるの?お久しぶりね」と話しかけてくれますが、おばあちゃんはもう、その相手が誰なのかは分かっていません。それでもおばあちゃんはニコニコしていました。久々におばあちゃんの笑顔を見て、歌えなくてもやっぱりコーラスは良いものだと思いました。
老人ホームでコーラスを行うことは、本当に素晴らしいことだと思います。